日本文化
だるまは、なぜ何度でも起き上がるのか|願いと再出発を支える日本の縁起物
倒れても起き上がる形、七転び八起き、願いを込める目入れ。白河だるまを使った手描き作品から、日本のだるま文化をひもときます。
青いフクロウ、紫のフクロウ、黄色い猫。そして、胸元に描かれた「福」の文字。
Soi YIPUNで販売を予定しているのは、日本で古くから親しまれてきただるまの形に、動物や色彩を重ねた小さなアート作品です。
制作しているのは、ことり商店のアーティスト「ことり/KTR」。福島県白河市の佐川だるま製造所が作る白河だるまを素地に、一点ずつ手で描いています。
同じ形から生まれていても、表情は一つひとつ異なります。近くで見ると、張り子のわずかな凹凸や絵筆の跡まで残っています。
ところで、日本のだるまは、なぜ丸いのでしょうか。そして、なぜ「倒れても起き上がるもの」として、人々の願いや目標に寄り添ってきたのでしょうか。
この記事では、Soi YIPUNに並ぶ作品を入口に、その背景にある日本のだるま文化をひもときます。

だるまは、誰の姿を表しているのか
だるまの名は、日本で「達磨大師」と呼ばれる僧、Bodhidharmaに由来します。
達磨大師は、インドから中国へ渡り、禅の教えを伝えた人物として広く語り継がれてきました。日本でも、鋭い眼差しと大きな衣に包まれた姿が、禅画をはじめとするさまざまな作品に描かれています。
達磨大師については、壁に向かって長い年月坐禅を続けたという逸話も知られています。ただし、これは歴史的事実として確認されたものではなく、後世に伝えられた伝説です。ニューヨークのメトロポリタン美術館も、「9年間にわたり洞窟で坐禅を続けた」という話を伝説として紹介しています。
「長い修行で手足がなくなったため、だるまに手足がない」という話もありますが、これも伝説の一つです。
現在のだるまの形は、達磨大師の坐禅姿を表す造形と、倒しても起き上がる人形の仕組みが重なりながら形づくられてきたと考えるのが適切です。

倒れても戻る形と、「七転び八起き」
伝統的なだるまの多くは、紙を重ねて形を作る「張り子」の技法で作られています。
丸い胴体の下部に重さを持たせ、重心を低くすることで、横へ傾けても元の姿勢に戻るように作られています。
「七転び八起き」とは、何度失敗しても、また立ち上がるという意味の日本の言葉です。
大切なのは、一度も倒れないことではありません。
思い通りに進まないときがあっても、もう一度、自分の向きを整える。だるまの動きは、そうした人の姿と重ねられてきました。
なお、Soi YIPUNで販売予定の手描き作品にも、だるまらしい丸い形と、倒れても再び起き上がるつくりが受け継がれています。ただし、一体ずつ手描きされたアート作品のため、絵付けを守り、長く楽しんでいただけるよう、転がして遊ばず、そっと飾ることをおすすめしています。
ことり/KTRは、「基本的には起き上がる仕様ですが、作品を守るため、飾って可愛がっていただけたらうれしいです」と話します。

願いをかなえるものではなく、願いを忘れないためのもの
日本では、だるまに商売繁盛、家内安全、合格、仕事の成功など、さまざまな願いや目標を託してきました。
しかし、だるまを置くだけで願いがかなうという意味ではありません。
だるまは、決めた目標を目に見える形にし、そこへ向かって行動する気持ちを忘れないための存在でもあります。
毎日目に入る場所にだるまがあれば、自分が何を願い、何を始めようとしたのかを思い出すことができます。
その意味で、だるまは未来を予言するものではなく、願いと行動の間に置かれた、小さな目印なのかもしれません。
片方の目から始まる約束
日本の願掛けだるまには、購入したときには黒目が描かれていないものがあります。
願いや目標を決めたときに片方の目を入れ、その願いが実現したとき、あるいは一年を無事に過ごした節目に、もう一方の目を入れます。
白河市や高崎市では、最初にだるま自身の左目、見る人からは向かって右側の目を入れる方法が紹介されています。
ただし、これはすべてのだるまに共通する絶対的な決まりではありません。
目を入れる順序や時期は、地域、寺社、家庭、だるまの種類によって異なります。宮城県仙台市の松川だるまのように、最初から両目が描かれている地域のだるまもあります。
目入れは、単なる完成作業ではありません。
最初の目は、これから始めるという決意。もう一方の目は、歩んできた時間を振り返る節目。その間にあるのは、持ち主自身の行動です。
今回紹介していることり/KTRの作品は、目を含めて作家が完成させたアート作品です。購入者が後から目を入れることは想定されていません。

赤だけではない、土地と時代が生んだだるま
「日本のだるま」と聞くと、赤い丸い姿を思い浮かべる人が多いかもしれません。
けれども、日本各地のだるまを見比べると、顔、色、模様、文字、目の描き方には大きな違いがあります。
群馬県の高崎だるまは、眉に鶴、ひげに亀を表し、胴に「福入」などの文字を描くことで知られています。
宮城県の松川だるまは、群青色の縁取りや、宝船、福の神などの華やかな絵柄が特徴です。
福島県の白河だるまは、丸みのある穏やかな顔を持ち、眉やひげなどに鶴、亀、松、竹、梅の意匠が取り入れられています。
現在は、赤だけでなく、白、青、黄色、金色など、さまざまな色のだるまが作られています。ただし、「青はこの願い」「黄色はこの運」という意味が、日本全国で統一されているわけではありません。地域や作り手、販売者によって解釈は異なります。
一方、「福」という文字は、幸せ、よい巡り合わせ、恵まれた状態などを表します。だるまの胴に「福」「寿」「必勝」「商売繁盛」といった文字を描くことは、願いを目に見える言葉として残す方法でもあります。

受け継がれた形に、今の感性を描く
ことり/KTRが描くだるまには、一般的な赤いだるまとは異なる色と表情があります。
淡い紫と水色のフクロウ。鮮やかな黄色の猫。ピンクや黒を背景に、無数の目や羽根のような模様が広がる作品。
描かれている目や線は完全に均一ではありません。紙の表面に残るわずかな揺らぎと手描きの線が重なり、それぞれに異なる表情を生み出しています。
これらの作品は、購入した人が目を入れる願掛け用のだるまではありません。目まで含めて作家が描き上げた、完成したアート作品です。
それでも、作品の根底には、長く受け継がれてきただるまの丸い形があります。
伝統とは、同じものを変えずに繰り返すことだけではありません。受け継がれた形が、新しい作り手と出会い、今の時代の色や感性をまとっていくことも、文化が続いていく一つの姿です。
白河市でも、伝統的な白河だるまに自由な絵付けや装飾を施す「白河アートだるま」の公募と展示が行われています。

バンコクで、小さなだるまと目が合う
青いフクロウと目が合う人。黄色い猫に思わず笑顔になる人。細かな模様に引き寄せられ、じっと作品を見つめる人。
だるまの受け取り方に、一つの正解はありません。
再出発を思い出す人もいれば、日本の手仕事に興味を持つ人もいるでしょう。純粋に、色や表情にひかれて選ぶ人もいるはずです。
ことり商店/ことり・KTRによる手描きのだるま作品は、バンコクのChatuchak Weekend Market、Section 16、Soi 23/4–5で開店準備中のSoi YIPUNで販売を予定しています。
写真では伝わりきらない張り子の凹凸、筆の跡、そして一つひとつ異なる表情を、ぜひ店頭で見つけてください。
